恋するキミの隣で。~苦さ96%の恋~



いくら小林のためなんて思ってたって、小林がどうして欲しいと思ってるかなんて、聞かなきゃわかんねぇんだ。

何を、誰を望んでるのかなんて……

誰にも分からない。





「ああゆう風にちゃんと断れる人って優しい人だと思わねぇ?」


市川先輩と別れた後、岡田が言った。

大して傷ついてない様子の横顔はさすがだ。


「そうだな」

「だろ? だからオレ、間違ってないんだよ」

「は?」

「は? じゃねぇよ。誰が諦めるっつったよ。今ので俄然マジになったし」

「はぁ?!」


驚くオレに、岡田はにかっと歯を見せて笑う。

……なんなんだ、こいつの原動力は。


さっき振られたばっかなのに、それで本気になるって……ありえねぇ。


「壱もさぁ……」


渡り廊下を渡り終わった所で、岡田がオレを振り返った。

そしてグーでオレの腹をトン、と押す。


「相手の気持ちばっかり見てないで自分の気持ち見てやれよ。

せっかく好きになったのに、無視してたら自分が可哀想だろ。腐るぞ、そのうち」



 ……――――




オレの煮え切らないガチガチな頭を、岡田の言葉が打ち砕く。


そうなんだよな……


高遠が好きな小林。

小林が好きなオレ。

小林には応えない高遠。


ただ、それだけなんだ。

何も問題はないんだ。


オレが高遠の気持ちまで考える必要なんかどこにもないし、高遠の気持ちを知ったからって遠慮する必要もない。


オレは……オレの気持ちを大事にしなきゃいけないんだ。

これは、誰でもない、オレの物語なんだから。


「うるせぇよ」


岡田のグーを払いのけながら笑うと、やけに軽くなった表情に気付く。


がんじがらめはもう止めだ。

オレだって小林を思う気持ちは、高遠には負けない。

もう、ビビらない。


小林を……振り向かせて見せる。



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