セピア‐ため息の行方
16  そして胡桃は少し疲れていたので椅子に座りボンヤリと都会の夜景を眺めていた。すると外の空気が冷たいせいか、寒くなったので、窓を閉め鍵をかけた。すると急に緊張が解(ほぐ)れたのかドドっと疲れが押し寄せてきた。まあ、秋田から東京までの長旅でしかも今回は行楽のための旅行ではない。その事がより一層胡桃の体の疲れを増しているようだった。


  程なくしてカーテンを閉めて旅行鞄から着替え用の下着を出して洗顔用クリームと化粧水等が入ったポーチを取り出し、ホテルの備え付けの浴衣と帯を手に浴室へと向かった。


  浴室に入ると胡桃はまず浴槽を軽くざっとシャワーで濯(すす)ぎ栓をしてお湯を出しながら、メイクを落とし髪と顔を洗面台で洗った。程なくして浴槽がいっぱいになったのでシャワーカーテンを引いてから、体を洗いシャワーで泡をすっかり洗い流すと湯船にゆっくりと浸かった。


  瞬時に全身の血液が体中を駆け巡り次第にゆっくりと疲れが解(ほぐ)れ、少し熱めのお湯が体全体がじんわりと温まってきたので、胡桃は暫くそのまま湯船に浸かり先ほど病院で花梨が酸素マスクをした痛々しい姿を思い出した。なんでこんな事になってしまったのだろうか?考えれば考える程益々胡桃は花梨の容体が気になって仕方がなかった。それと同時に早く元気になって欲しいと胡桃は心から願った……。
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