セピア‐ため息の行方
  キリタンポ鍋は割と簡単で手間要らずなので倉橋家では冬場に作る夕食のメニューの一つとして頻繁に登場する。ちなみに共働きで忙しい花梨の母有莉禾にとって、最も得意とする十八番(おはこ)的な料理だった。


  そして小振りの土鍋の中で程良く煮えていたアツアツのキリタンポ鍋を食べ終える頃、
「ねえ花梨ちゃんまだ陽が高いからこれから街を散歩しに行きましょうか?」
  と李が言った。


  そう言われて花梨は無意識にふっと壁に掛けてある時計をそっと見た。するとなんと壁には花梨がまだ田舎に住んでいた頃に見た昔懐かしいモダンテイストなぼんぼん時計が掛(か)っていた。その時計を見ると時計の針は午後の3時近くを指している。


  部屋の中の雰囲気がこんな感じならば外の風景ははどんな感じなんだろうか?と、段々興味が湧いてきた花梨だったので、透(す)かさず
「連れて行って下さい!」
  と、ほんのりとりんごのように赤く火照(ほて)った頬を、両手で包み込むような仕草をしながら花梨は言った。
< 29 / 291 >

この作品をシェア

pagetop