セピア‐ため息の行方
  つまり『自分は何のために生きているのだろうか?これから先、自分は生きて行く価値なんてあるのだろうか?』と言ったそんな他愛もない悩みなのである。まっ、所謂(いわゆる)誰もが子供の頃にかかるはしかみたいなものだ。


  大抵は10代でそう言う思いになるのだが、花梨は比較的に恵まれた幼少時代を過ごして来たせいか、今頃になって突然にそう言う思いが漠然と心の底から湧き上がってきたのである。


  そんな夜には決まって花梨はこの写真を見る。色褪(いろあ)せたセピア色の一枚の写真。その写真の中に写っている着物姿の女性はとても知的な顔をしていて、目が大きくどこか物憂(ものう)い気で、何故か人の心を強く惹(ひ)きつける。


  ちなみにこの人は花梨が生まれるずっと以前に亡くなった花梨の母方の曾おばあちゃんの李(すもも)さんである。尚、李さんはスキルス性の胃癌を患(わずら)い35歳の若さで亡くなった。


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