Rain
お母さんがくれた傘
学校に到着すると、ちょうど外で行われていた体育の授業が終わったみたいで、ぞろぞろとクラスの子達が玄関に向かって歩いてきた

私は何となく気まずくて、皆が玄関からいなくなるようなタイミングを見計らって玄関に入った

その時、見覚えのある顔が傘立ての前で立ち尽くしている









「……坂田さん……どうしたの?」

今までの私なら、有り得ない話だけれど、今の私は、坂田さんの神妙な面持ちを見て、どうしても無視する事が出来なかった


坂田さんは、私の顔を見ると、小さく笑って言った

「……あ…本條さん……おはよう………実は………結構前になるんだけど…………私の大切な傘が無くなったの………」


………傘……


………人気のブランドの高い傘


「……その傘ね………お母さんがくれた物なんだけど…………

私、小さかった頃、凄く体が弱かったの……もう、ダメだってお医者さんに言われた事もあるんだよ?
……そんな私の面倒を見るのに耐えきれなくなって………お母さん、ある時、家を出ていったの…………それから1度も会ってない…………

でもね、高校に入学する時に、お母さんからあの傘と手紙が届いたの………手紙にはたった一言『葉月、ごめんね 入学おめでとう』って……
でも、それだけでも私、凄く嬉しかった……
だって、お母さんは私の年を覚えててくれたって事だから……私が高校に入学した事を祝福してくれたって事だから………もう、それだけで充分………
……だからもしも、あの傘を誰かが間違えて持っていっちゃったなら、こうやって毎日見ていれば、そのうち、あの傘が返ってきてるんじゃないかって…………でも、もうこんなに時間も経っちゃってるし………無理なのかな……?」

そう言って坂田さんは、傘立てを見ながら寂しく笑った

でも、すぐに我に返って慌てて言った

「……って、ごめんなさい。
本條さんにこんな話して!……全部聞いてくれてありがとう……」

坂田さんは、今まで愛実達とつるんで偉そうにしていた私が、最後まで静かに話を聞いていた事に驚いたみたいで、笑顔でお礼を言ってくれた


私は、坂田さんの傘を盗った犯人を知っている

「…傘を盗ったのは………彩だよ」

「…えっ?井上さんが?」

「取り返してくる」

私は、そう言って、驚いてる坂田さんを尻目に教室まで走った
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