【完】36℃の思い〜世界で1番大切なキミへ〜


「...が...い......」



アイツの言った言葉を復唱するので精一杯。



「未菜にとって邪魔な存在。憎い存在。先輩が未菜と関われば、未菜は必ず苦しむ。傷つく。先輩、貴方が未菜を苦しめてるんですよ」



「俺が...」



「言いましたよね最初に。未菜は嫌な思い出、ストレスを抱えていた原因そのもの、無意識に彼女が思い出したくないと思っている...それらが記憶をなくした原因だと」



そんなの、コイツから聞かされて嫌というほど現実を理解しているつもりだった。



でも実際心のどこかで、未菜は俺のことを大切に思っていてくれたんじゃないか。

未菜にとってかけがえのない存在だったんじゃないか。

いつか記憶を戻してくれるんじゃないか。

前みたいに笑ってくれるんじゃないか。

俺のことを...少しは覚えているんじゃないか──



俺はその話を聞いてから日にちが経つにつれ、少しずつ未菜に対して無意識に期待を抱いていたんだ。



いつまで経っても甘い考えの俺に、心底腹が立つ。



「脳天気にも程があります。先輩は未菜を傷つける。少しでも、彼女を守りたいと思うなら...もう彼女に関わらないで下さい」



山野千沙は、俺にはそう言葉を浴びせると俺の前から立ち去った──



俺は暫くその場に立ち尽くすと、部活に出ることなく寮に真っ直ぐ帰った。



その日の夜、部活から帰ってきた長沢に言われた。



『相川さんが凄い心配していたよ』



今の俺にその言葉は苦しくて苦しくて、ベッドで1人声を殺して静かに泣いた──

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