嘘と本音と建前と。
田中の反論を聞く前に空知の手を掴み、司は教室から出ていった。


その数秒後、司のせいでさらにヒートアップした怒りが不良たちにぶつけられ、避難するために教室を出たはずの司でさえ鼓膜が裂けそうになったのは言うまでもない。


文化祭前の図書室は思ったより混んでいた。


演劇の本を熱心に読んでいる一年生が多いようだ。


ここまで多いと今年の一年生の演劇は期待できそうだな、と司は心の中で思う。


お気に入りの作家が並んだ本棚の前に立ち背表紙をなぞる。


本と本の間に差し掛かった時のポコッと鳴る音が好きだ。


その動作を司は二回繰り返した。


司は満足げに一冊の本を手に取り、ぱらぱらとめくった。


その背後を取るかのように空知は司の後に立った。


「横断幕下絵出来てんだけど」


空知は申し訳なさそうに言った。


そんなことは司だって知っている。


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