イケメン御曹司に独占されてます
池永さんに恋をしている自分に気づき、甘い気持ちで満たされたのはほんの一瞬のことだった。

現実を考えれば、池永さんは一流企業の御曹司。
一般人で、しかもなんの取り柄もない私には、到底手の届く相手ではない。
かなうはずのない恋、なんて言い方すらおこがましい。生まれ育った環境も、神様に与えられた資質でさえ私と池永さんとじゃかけ離れている。


ここ最近の池永さんは、確かに私に対して近寄り過ぎていた。
けれど——その時々の状況を考えてみれば、いずれも私がひどく動揺してる時だということに気づき——。


優しさなのだ、と思った。
池永さんはああ見えてとても優しい。
いつも辛辣な言葉が飛び出すダメだしも、その裏には一人前の仕事ができるようにとの思いやりがあることに、もうずいぶん前から気づいていた。


あの眼鏡の奥の揺るぎない瞳で本質を見極めて、本当に全てがお見通しなのだ。だから多分、私の心の傷に気づいて手を差し伸べてくれただけなのだ。


私なんかが池永さんを好きになるなんて、馬鹿だなぁってちょっと笑える。
恥ずかしくって、こんなの七海子にも打ち明けられやしない。

だけど。
ひとを好きになる気持ちは誰にも止められないのだと、初めて知った。
きっと、自分自身にすらも。










< 157 / 271 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop