イケメン御曹司に独占されてます
「ごめん……。だけどなんでお前、電話に出ないの?」


弾む息で乱れた声。途端に涙が溢れて、顔を上げられない。


「充電が……。ごめんなさい」


「いや、こっちこそごめん。いきなり先方の社長に食事に誘われて、さすがに断れなかった。……だけど、なんでこんなに待つんだ。というか、どこかで時間を潰すとか……。そうこと考えないのか、お前は」


「池永さんが……事故にあったんじゃないかって心配で……。だから無事な姿を見るまで、ここを動けなくて」


ようやく顔を上げた私を見た瞬間、池永さんの目が大きく見開かれた。
走って来たせいで乱れたスーツと、困惑した表情。
無事な姿を見てホッとすると同時に、その滅多に見られない頼りなげな顔に胸が締め付けられる。
同時に、無事だったことが嬉しくて、心の底からほっとした。


涙で濡れた顔のまま微笑んで、池永さんのスーツの袖を掴む。


「池永さん、すごい遅刻——」


ふざけた口調で文句を言おうとしたのに、その言葉は遮られてしまった。

大きな手に頬を包まれて、体をかがめた池永さんが僅かに微笑んだ気がした。
そして抗う暇も無く、形の良い冷たい唇が私の唇に重なる。
突然のできごとに、目を閉じる暇も無くて。


わずかな時間で離れた唇が今度ははっきり微笑んで、とても近い距離でじっと見つめられる。
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