イケメン御曹司に独占されてます
「……俺たちも戻るぞ」


池永さんの大きな手に手首を掴まれて——見慣れているはずの後ろ姿に、なぜだか胸が高鳴る。

タキシード姿が思いの他王子様みたいだから?
私が、お姫様みたいな格好をしているから?
……池永さんの手が、私に触れているから?


ふと我に返り、この状態が猛烈に恥ずかしくなる。
こんなの、まるでドラマのワンシーンみたいだ。
ヒロインが想う相手にどこかに連れ去られるラブロマンス。


「池永さん、あの、手を離して下さい」


こんな妄想をする自分がいたたまれない。
イタい。いや、イタいの通り越してもう既に別の次元にいってしまっている。


「ダメだ。ちょっと目を離したらすぐにどこかへ行ってしまう。お前は危なっかしくて……苛々する」


ぶっきらぼうに言い放ったあと、振りむきざまに見つめられる。
苛立ちを含んだその瞳の熱っぽさに、私の心は激しく揺れて——うるさいくらい心臓が波打つのを、どうしても止められなかった。
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