流れ星に4回目の願いを呟く時。
3. 役に立たないコンパス



 3. 役に立たないコンパス



 講義室には若い気力と、それでいて、ぬるま湯に浸かっているような怠惰な空気が流れていた。


 高山保育大学の保育士新人研修に参加したのは、今からちょうど1年前。今以上に園の仕事にバタバタしていた頃。


 それが今年は特別講師に選ばれた由美子の助手として参加している。


 いつもはメイクの話しやお酒にスナック菓子、くだらない話しばかりしている由美子が真面目に教壇に立つ姿は、何というか。思わず笑みがこぼれそうになる。


 そういう時はレジュメで顔を隠すのが得策なのだが、今は学生のように席に着いているわけではない。


「ではここで、去年から付属保育園の方で勤務している山崎先生にお話をして頂こうと思います。」


「えっ。」


 しかし、この急なアドリブ。流石は由美子だ。ニタニタと笑う顔が実に憎たらしい。


「えーと、去年から付属保育園で勤務している......」



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