私の小さな願い事
~依里~


歳三に抱きしめられている……

歳三の心臓の音


「どっ……どうしたの?」


ドキドキするから、辞めて欲しい

「歳三?」

なんか言ってよぉ


「俺が、父親になってやろうか?」




これって

同情…… だよね

「気持ちだけ、貰うね!ありがとう!」


私は、うまく笑えない

何でかなぁ


わからないけど……


生きているだけで、幸せだった


優里が元気いっぱいだから


それだけで良かった


歳三の胸を押し、離れる


歳三は、優のなんだから…


唇を噛み締め、このドキドキを静める

優里がいれば、それでいい



その夜も、烝と屋根上へ


前は、烝に追いつけなかったけど

ずいぶん体力が回復した

烝は、容赦ない

おかげで、ついて行けるようになった




前と同じくらいの体力になってきた




それでも、思うように動けず

屋根から落ちることがある


ドサッ


いたぁーーーーーい!!!

受け身をとっても、痛い!!!


人の気配がして、潜む


「あれだけの音を出していて、隠れても無駄だろう…クククッ 出てこいよ
待ち合わせの時間まで、暇つぶしに
話でもしよう」


まったく殺気のない人

顔を隠しているし、いいかな


「女子か?」

「よく、間違われる」

「声変わりもしていないのか?」

「うっせぇ」

「ふっ すまん」



なるべく低い声を出す

ヤケにニコニコした男だな


「よく落ちるのか?」

「まぁ……」


「怪我をしないようにな」


なんだろう……

この人、兄と被る


「なぜ、こんな訓練をしている?」

「負けたくないから」


「そうか、お前の敵は、なんだ?」


「え?」


「俺は、勝ち負けなんかどうでもいい
理想の世をつくるため、前に進む
そこに、争いは必要ない
強くなんかならなくていい
人は、言葉で意思を伝えられる
話し合いができたら、喧嘩しなくていいのになぁ……
前に進む度、仲間を失う
望んでいない争いが起きる
自分や自分の廻りを守るという、もっともらしい理由で、人の命を奪う
そんなことしなくていい世が出来たらな」


「そうですね……話し合えば良かった」



私は、どんな理由があっても

もう……誰も殺さない

この男は、まるで私の人生を見ていたようだ

お見通しって、目で笑う


「人斬り以蔵って、知ってるか?」

「聞いたことある」

「俺の仲間だ」

「そう……人斬り……俺と同じだ」


そう言うと、男はお日様のように笑った


「人斬りの苦しみは、消えない
あいつも、ずっと苦しんだ」

「俺も……だけど、大切な人を守る強さっていうか、自信が欲しい
ひとりで生きていく自信が……」

「女子のような子供が、偉そうに!
お前には、まだまだ早いな!!!」

「俺十九だけど……」

「はぁ???」



おそらく、長州の人




だけど、この人の言葉は、胸に響いた


話し合いで、解決出来る世がくる


そんなふうに思えたのは、この男が
自信に満ちているからだろう






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