私の小さな願い事
慶応 元年 秋

恋心

~依里~


慶喜様が何度も文を出したのに
返事がなかった

やっと来た返事には

御正室様から、お子が元気すぎて大変だということ、名前を慶太郎としてくれたこと

多津の振る舞いを申し訳なく思って
謝罪の言葉の数々

私に会いたいと書いてあった


「言った通りだろ!?
慶太郎は、良い子だな!!
あ~顔も見ておらぬし、抱いてもないのが
悔やまれるのぉ~!!」


涙が止まらない私の背中を優が擦ってくれて、慶喜様が私の頭を撫でてくれる


よかった…


あの多津のことだから、山に捨ててないか
疑ったこともある

多津……ごめん


文を読ませてもらい、御正室様が

とてもお優しい方だとわかる


「御正室様、さみしい想いをしてらっしゃったなら、慶太郎は、慶喜様にそっくりだから、よかったわ」

「依里…」


「強がりでは、ありませんよ!
御正室様は、ずっと旦那様と離れてお暮らしでしょう?さみしいはずだもの!
私は、慶喜様がいてくださるから」


ん?旦那様、なぜ真っ赤???



「優…そろそろ、帰る支度して
私、もう大丈夫だから!!!」


優は、歳三のもとに返さなくちゃ


私のせいで、さみしい想いをさせるわけにはいかないわ



「もう少し……」

「駄目よ!!帰りなさい!!」


小さくため息をついて、慶喜様が


「いつでも来い
夜中でも、其方なら忍び込めるだろう」


やっと納得して、翌日優は、帰った




「さみしい……」




久しぶりに、手が震える

怖い




「依里」


急に慶喜様がいらして、驚いた

手の震えを悟られないようにして

笑顔を作る


「慶喜様」


慶喜様が私の手に触れる

「さみしいな」

「うん」

そっと抱きしめてくれる

「依里… もう、ひとりにしない
そばにいるから」

「駄目よ!!他の側室様がさみしいわ!!
ダメダメ!!順番を決めましょう!!
取り合いになってもいけません!!」



おかしなことを言っている

ちゃんと自覚は、あるけど

これは、譲れない


「俺が、ほったらかしているみたいに言うな
それなりに会いに行っておる」

「それなりは、ダメ!!
待ってると辛いの!!さみしいの!!」

「依里~其方は、自分のことを考えよ
俺は、文を絶やしてないし、依里が心配することではない」

「でもぉ……」

「大丈夫だ!!誰にもさみしいと思わせなければ良いのだろう?
任せとけ!!」

慶喜様……

私、おかしいの
他の側室様を大事にと言いつつ、胸の奥が苦しい

慶喜様……


私、病なのかしら








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