私の小さな願い事
この暗闇も静けさもずいぶん慣れた

弱音を吐けば、弱くなる気がして

どうにか、寂しさを押し殺す


最初の頃ほど


慶喜様が会いに来ることが減った

多分… 私の頭痛がしたあの日から



少しづつ、慶喜様が来なくなった




そうよね……




こんなになってしまっては、私…


邪魔だよね……








〝なにか なやみがあるならいって〟


「ありがとう多津
お腹大きくなったなぁって
もうすぐだよね……
多津、合図決めようよ
息むときとかわからないし」


二人目となれば、要領も得ている

ただ、耳が聞こえないから

そこが不安



たとえ、暗闇でも音がなくても

私は、ひとりが嫌いらしい

多津の気配もなく、なんだか寂しくて


慶喜様に会いに行ってみよう


こんなふうになってから、ひとりで廊下までしか出たことがない


頭の中で、慶喜様の部屋までのおおよその

歩幅を想像して、少しウキウキしながら

部屋を出た



転けないように


それだけを気をつけて


ゆっくり進む


不思議と誰にも会わない

声を掛けられたら、どうしようと思っていた

聞こえないことくらい

皆知っているだろうけど





もうすぐって所で、ズキッ

軽い頭痛がした

ギュッと目を瞑り

痛みがひくと、そっと目を開けた


えっ…


真っ白……



「慶喜様!!嬉しい!!」

「俺も嬉しいぞ!!
きっと可愛い子が産まれるぞ!!」


えっ…


心臓がバクバクしてる

聞こえた


確かに、聞こえた


真っ白で、何も見えないことに変わりはないけど


光を感じている


そっと、部屋へ戻る


聞いたことのない女の人の声

新しい側室様ね

御懐妊がわかったのね


とぼとぼ歩く



もう聞こえない

自分の足音がしない


部屋に戻るとまた、真っ暗闇


翌日


〝よしのぶさま そくしつ かいにん〟


と多津が教えてくれた

知ってる

とは、言えず

ものすごく喜んでおいた



諦めることには、慣れている



もとはと言えば、毒なんて飲んだ


私が悪い


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