君と、美味しい毎日を
「じゃあ、気を付けて帰ってね。
久我原、もう遅いから瑶ちゃん部屋の前までちゃんと送れよ」

「わかってるよ。じゃーな」

「大介くん、今日はご馳走さまでした」

大介の部屋を出て、駅までの道を二人で歩く。
氷点下の夜、さすがに歩いてるやつはほとんどいない。

「う〜寒いね。 手袋してても指が凍りそう」

瑶は柔らかそうなベージュのコートを着て、黒いマフラーと手袋をしていた。

「昴、薄着じゃない? 寒くないの?」

「寒いけど・・・俺、寒いの好きだからいい」

俺がそう言って空を見上げたとき、白い細かな粒ががふんわりと落ちてきた。

「「雪だ・・・」」

俺と瑶の声が重なる。



「ねぇ、昴」

瑶の声は雪に吸い込まれるようにして、消えていく。

「あの時、何であんな事したの?」

囁くような声なのに、はっきりと耳に届いた。

「今更、そんな昔のこと蒸し返すタイプだったっけ?」

「・・・そだね。じゃ、質問変えてもいい?」

「どうぞ」

「昴は今もあんな乱暴なキスをするの?」

あれはキスなんて呼べるものじゃない。
キスという響きに似合う甘さも優しさも何もなかった。

「さぁ、どうだろうな。知りたいなら試してみる?」

俺は薄く笑って、そう言った。

瑶は黙って、俺をじっと見つめる。
瑶のこういう目は苦手だ。

全てを見透かすようなまっすぐな瞳。


雪が瑶の睫毛にハラハラと落ちて、溶けていく。



「あのさ、高橋、いい奴だと思う。
瑶にはあういうタイプが合ってるよ」

「そう思う?」

「うん、瑶は基本ネガティブじゃん?
高橋みたいな明るいな奴に明るい方に引っ張ってもらった方が絶対いい。
幸せになれると思うよ」

ドラマや映画では傷を抱えた者同志みたいなカップルがよく出てくるけど、実際はあういうカップルはうまくいかない。

影を持つ人間はできるだけ光に囲まれた方がいい。

そして、瑶も俺も心のどこかに影を持つ人間だと思う。


「昴、私に幸せになってほしいの?」

「うん、同じサークルの・・・友達じゃん。幸せになってほしいよ」

「ありがとう」

瑶は寂しそうに、幸せそうに、微笑んだ。


友達になりたいと思った。
瑶の望んでいた家族にはなってやれなかったから。
せめて、良い友達に。





























































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