君と、美味しい毎日を
サークルの後輩の高橋くんに告白されたのは、大学3年の冬のことだった。

私は公務員志望だったから、就活よりは試験勉強中心の日々を送っていた。

私は昴と違ってもてるタイプじゃないし、人付き合いも得意じゃないから恋愛経験はほとんどなかった。

高校時代にクラスの男子と付き合ったことがあったけど、つまらないって言われて1ヶ月で振られちゃったし。


だから、正直迷っていた。

高橋くんはいい子で、もちろん嫌いじゃない。

でも上手に付き合える自信もなかった。



大介くんの家ですき焼きをしようと誘われた時には、私の中で高橋くんの告白はお断りする方向に傾いていた。


すき焼きの帰り、雪の降る寒い夜、珍しく昴と二人きりになった。



昴の言うとおりだ。

何で私はあんな昔の話を蒸し返したりしたんだろう。

昴はあれをキスなんて、思ってもいなかったに違いない。

あのキラキラした華やかな女の子達には、甘くて優しい、蕩けるようなキスをするんだろう。


そんなこと、聞かなくてもわかってた事だったのに・・・



キスという呼び名をつけることで、私はあれを特別な出来事にしたかった。
昴にも特別な事だと感じて欲しかった。

昴に、私も女の子だと知って欲しかった。


残念ながらその願いは叶わなかったけど、昴は私に幸せになって欲しいと言ってくれた。

それだけで十分だった。



翌日、私は高橋くんによろしくお願いしますと返事をした。

高橋くんは本当に、私にはもったいない素敵な男の子だった。

楽しい時間も確かにあった。

けれど、私達のお付き合いはとても短い時間で終わってしまった。



せっかく朝早く起きて1限に間に合うよう登校したのに、教室前に休講のお知らせが貼られていた。

仕方なく誰もいないサークルの部室で時間を潰していたら、昴が顔を出した。

「もしかして、社会学の休講?」

昴にそう聞かれ、私はうなづいた。
昴も同じだったらしい。

「一応映画鑑賞サークルだし、映画でも見ようか」
私はそう言って、適当なDVDを選んで、再生した。

それはイタリア映画で、イタリアの街と海の映像がとても美しかったけど、ストーリーは単調で退屈だった。

「別れたんだって?」

静かな声で昴が言った。

「うん、振られちゃった。
せっかく昴が応援してくれたのにね」

「うん」

「・・・私は誰かを大切にする事が上手にできないみたい」

「うん。

俺も同じだから、わかる」


私達は昔から、正反対なようで、どこか似ていた。

誰かを愛することも、誰かに愛されることもひどく下手くそだ。



それ以上言葉を交わす事もなく、私達はその退屈な映画をラストシーンまで観続けた。
































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