君と、美味しい毎日を
「なぁ、瑶は俺と兄妹になれるって本気で思ってたの?」

イライラする。

「そうなれたらいいなって、私は思ってたよ」

イライラする。瑶に、自分に。

「ふーん、気が合わないね。俺は一度も思ったことないよ。

だってさ・・・・」

ーーずっと、こうしたいと思ってたし。

言うなり、俺は瑶に覆い被さった。
瑶の頭がゆっくりソファに沈みこむのを見下ろしてから、柔らかい唇に噛み付いた。

ぷつっと皮膚の切れる音がして、口の中に血の味が広がる。

瑶の好きなレモンティーの甘い香りが媚薬のように俺を煽る。

いたっと小さく抗議した瑶の声を無視して、俺は瑶の舌をなぞった。

熱に浮かされたように頭の芯が痺れて、何も考えられなかった。


ただひたすら、身体が熱かった。


どのくらいの時間、そうしていたんだろう。
数秒だったのか、数分だったのか。


ふと頬に触れる冷たいものに気がついて、初めて瑶の唇を解放した。


瑶は声も出さずに泣いていた。

その静かな涙が俺を現実に引き戻した。



「瑶・・・」

「気が済んだ?こんな事で気が済むなら、昴の好きにしたらいい」

瑶は俺の嫌いな、あの寂しそうな微笑みを浮かべている。

俺をひどく責めているようにも、全てを許しているようにも見える。


ごめんの一言すら言えなかった。


結局、俺は瑶のお兄ちゃんにはなれなくて。

このまま何の関係もない他人に戻って、瑶に忘れられてしまうくらいなら憎まれた方がマシだった。


嫌われても、憎まれても、何でもいいから、瑶の中に自分の跡を残したかった。

覚えていて欲しかった。


けど、皮肉なことに跡を残したのは瑶の方だった。

忘れられなくなったのは俺の方。

あの血の混じったキスの味と甘いレモンティーの香りを、俺はきっと一生忘れられない。


































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