イジワル社長と偽恋契約

私の言葉に少し驚いている旭さんに、私はニコッと笑って続ける。





「私のプライベートな事に巻き込んでしまったから今回は負けでいいです！次の賭け勝負しましょ」

「そうはいくかよ。勝負は勝負。最後までやり通せ」

「でも…そんな事くらいしか私には…」

「礼がしたいなら別のことで返せばいいだろう」



「別のこと」という単語がなんだかいやらしく聞こえて私は、少し顔を赤らめた後すぐに慌てて返した。






「そういうのはやめてくださいっ！」

「アホ。何変な想像してんだ。それに誰がお前なんかと」


まるで私なんか女として全く見ていないという感じで振る舞うと、旭さんはまた缶コーヒーを飲む。

ムッとした私もペットボトルの紅茶を開けて、ヤケになるようにグビグビと飲む。




「別のというは…俺の命令を一つ聞くのはどうだろう？」

「はい？」


急に子供みたいな事を言う旭さん。

「命令」なんて小学生の時の遊びか、幼い頃の弟とのやり取り依頼聞いていない。





「それで今回の事はチャラにしてやる。どうだ…引き受けるか？」

「…その内容にもよります」


子供の時の罰ゲーム感覚の命令と大人になってからは全然違うだろう…

この歳になって、しかもこんな大人の命令なんてろくなもんじゃないに決まっている。





「内容は簡単だからよろしく頼むよ」

「なんだか嬉しそうですね？」


旭さんはそう言って微笑むと、私にスッと手を差し出してきた。

私はその笑みに違和感を覚え彼を疑るように見つめる。






「久しぶりに楽しめそうだなと思って。お前…意外と面白いな」

「はぁ…」


これは褒められてるのかな？

それに「楽しめそう」って何よ？

悪魔が微笑むと恐怖が待っている予感がするのは気のせいか…





「話はそれだけだ。ここまで来たし面倒だから家まで送って行ってやる」

「いえっ、そんな…悪いです」


断ろうとすると旭さんは車のエンジンをかけると、私いる助手席側のシートベルトを引いてカチッとしめた。




「白鷺ハウス社長に送ってもらえるなんて有難いと思えよ」

「…フフ」


思わず吹き出してしまった。


彼の言葉に笑ったのは初めてかも…

旭さんが運転する車が走り出すと、彼は本当に私を家まで送ってくれた。


その道中はそんなに嫌じゃなかった。