イジワル社長と偽恋契約

偽りの関係

私の恋人

「はぁはぁはぁ…」


都内の高級マンション目指して、私は早朝から汗をかきながら必死に走っていた。


あれから数日後、私の朝は以前と全く違うものになっていた。

いつもよりも早く起きて支度をして家を出ると、会社ではなく旭さんの住むマンションに真っ直ぐ向かう。

その理由は…






ガチャ


「はぁはぁ…おはようございます！」


旭さんの部屋のドアを合鍵で開けると、私は滑り込むように中に入った。






「5分遅刻…」


すると、バスルームから旭さんが出てきて私を見るなり鋭い目を見せた。

ぜえぜえと息を切らしながら、私は「すみません」と呟く。



玄関でヒールを脱ぎ長い廊下を抜けて広いリビングに出ると、オープンキッチンの横のテーブルに、持って来た紙袋からランチボックスを取り出した。




「作ってきたか？」

「ちゃんと作って来ました。遅れるので早く食べて下さいね。今日は朝からミーティングがあるんじゃなかったですか？」


私は時間を気にしながらランチボックスを広げて、スープジャーの器に作ってきた味噌汁をそそぎケースから箸を出すと旭さんに差し出した。





「30分延ばす」

「もう…」


旭さんはマイペースにそう言って椅子に座ると、手を合わせて私の作ってきたお弁当を食べ始めた。


香苗と遥也夫婦に偶然会ったあの夜、成り行きで私の恋人のフリをしてくれた旭さんが罰ゲーム感覚で私に提示してきた「命令」というのは…

毎朝家まで手作りの朝食を作って来るというものだった。


あの日依頼…私は毎朝早く起きて自宅のキッチンに立ちこうして朝食作り、

旭さんの住むマンションに運んでいるという…弁当屋みたいな事をやっていた。


仕事柄、接待や付き合い等で洋食を食べる機会が多い彼が私にリクエストするメニューは全てが和食。

焼き魚や玉子焼き、きんぴらごぼうやひじきの煮物…それに汁物は味噌汁と決まっている。





「味噌汁…昨日よりも濃いな。あと玉子焼きはもう少し甘さ控えめでもいい」

「はい…」


私の作って来たおかずを食べて旭さんが採点をする…

これも毎朝の日課になってきた。


私はスケジュール帳にメモを取りながら必死に彼の好みを探る。


最近は仕事が終わるとスーパーに寄り翌日の朝食のおかずを買い、寝る前には炊飯器に米をセットして寝る…

完全に旭さんに中心の毎日に、彼の命令に従った事をほとほと後悔していた。





「はぁ…」

「慣れない事して疲れたか？でも毎日料理するなんて女を磨けていいじゃないか」


テーブルに肘をついて一息つく私を見て、旭さんはニコニコしながら言った。

私は来る途中で買ったホットティーをカバンから出すと、蓋を開けて一口飲む。





「そうですけど…そんな普通過ぎる朝食でいいんですか？」

「普通が一番だ。フレンチやイタリアンばかりだと飽きるしな。それより…お前が意外と料理が出来るってことに俺は驚いてる」

「最低限なら私だって出来ますよ」


家庭的なイメージないかもしれないけど、学生の時はいつも家庭科の成績は良かったし！