イジワル社長と偽恋契約
「味付けも悪くない」

「良かった…田舎出身の母に教えてもらったものばかりなので、いつもおばあちゃんみたいな味になってしまうんです」

「…うまいよ」


男の人に自分の作った料理を褒められたのはかなり久しぶり。


こんな時に思い浮かんだのは最後に付き合った元彼の顔…

あれは高校2の夏で、夏休みによく私が作ったお弁当を持って彼の部活を覗いたっけ…

そんな昔の恋を思い出すなんて…

もしかして私は旭さんを異性として意識しているということ?


私の作ったおかずを美味しそうに食べる彼見て嬉しいと思う気持ち…

それは恋心ということなんだろうか…






「三井」

「え、あ…はい」

「お茶」


私に目を向けることなく黙々とお弁当を食べる旭さんは、空になったカップを私に差し出して言った。





「はい…ただ今お持ちします」


必要最低限の単語しか発さない彼を目の前にして、一瞬高校生にタイムスリップしていた私の心は28歳の現代に戻った。






「どうぞ」

「…ん」


ブブ…


緑茶をカップに入れて旭さんに差し出すと、スーツのポケットに入れていたスマホが震える。


こんな朝から誰だろう…

もしかしてなんか嫌な事があったとか…?


いつもはこんな時間に鳴らない携帯に、私の胸はざわつく。






「ちょっと失礼します…」


私はスーツからスマホを出してキッチンの方に行きこそっと画面を覗くと、画面には香苗からのLINEが来ていた。

…なんだ、香苗からか。


とりあえず一大事ではないとわかり、私は一安心しながら何気なくメッセージに目を通す。





『おはよう!ねぇねぇ♪近々彼氏付きで食事でもどお?♡2人の彼氏ちゃんと紹介してよ~』


香苗のメッセージを読み終えた私は、石のように固まり何度も何度も読み返してみても同じ現象に陥った。

よく見ると真希ともグループ設定になっていて、香苗は私と真希を食事に誘って来たようだ。


食事だけじゃなく彼氏も!?


勘弁してよ…

私本当は彼氏なんていないんだから。





ブブ…


するとまたLINEにレスが来て画面を見ると、真希が「いいよ」とスタンプを返して来る。



いやいやいや!返信早いって。

どうしよう…

ここは断るしか……





「三井」

「…ぅわ!………は、はいっ」


香苗からの誘いをどう断るか迷っていると、リビングにいる旭さんに呼ばれた私は驚いて思いっきり変な返事をしてしまった…




「ご馳走様。今日もご苦労だったな」

「いえ…あ、片付けは私やりますので社長は支度して下さい」
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