イジワル社長と偽恋契約
それに気づいた私は、すぐに給湯スペースでブラックの熱いコーヒーを入れた。

そして電話をしている旭さんの前にそっとカップを出すと、手元のコーヒーを見て彼の表情が一瞬変わる。


カップの縁に手を添えて軽く持ち上げる旭さんは、少しだけコーヒーを含んだ後で電話を続ける…

それから数分間で電話での会話は終わった。






「絶妙なタイミングでコーヒーを出してくれたな。助かったよ」

「いいえ」


私は今まで旭さんと仕事をさせてもらっていて、彼がコーヒーを飲んだ後はいつもリフレッシュしたような表情をしていることに気がついていた。

それから時間帯や食後等に関わらず、旭さんがイライラしている時にはコーヒーを出すようにしている。







「それにコーヒーのメーカー変えただろ? 」

「はい!ローストが深い物にしてみました。社長がいつも飲まれてる缶コーヒーの味により近づけたかったので」

「…上出来だ」


社長室ではあまり笑顔を見せない彼が、今は優しく微笑んでくれた。

私を秘書として認めてくれたんだろうか…


私自身も旭さんを社長として受け入れている。

宏伸社長のように仕事は切れ者だし、厳しいところもあるがそれも愛のムチだと思えば何の支障もない。


あんなに嫌いだったのに…不思議。

今は良き仕事のパートナーだと思える程だ。





「ありがとうございます!宏伸社長の息子であるあなたの秘書を務めさせて頂けて本当に嬉しいです。これからも宜しくお願い致します」


私が丁寧に頭を下げて顔を上げると、旭さんは資料に目を通しながらコーヒーを飲んでいた。
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