イジワル社長と偽恋契約
そう言うと、旭さんはシャンパンのボトルを持ち上げた。




「あ…今グラスを」

「いいよこれで」


テーブルに並べてある新しいグラスを出そうとしたら、

旭さんは私が持っている飲みかけのグラスを持ちシャンパンを注ぐと半分くらい一気に飲んだ。


その仕草が色っぽく見えてドキドキしてしまう…





「ん?あれって…」


薄暗い部屋でふと目に止まったのは、ベット横の棚の上にあるグラス。

その中には現金が入っている。




「前に賭け事やった時の…」

「…会社から持ってきたんだ。いくら社長室に置いてあるって言っても物騒だし俺達の物を誰かに見られたくないと思って」


旭さんはシャンパンを継ぎ足しながら続けた。

私は現金の入ったグラスを手に取ってぼんやりと眺める。





「それに…お前に避けられてる時ずっとそれを眺めてた。お前とのアホらしい日常を思い出したりして」

「アホらしいって…」

「いつも当たり前にお前が隣にいるのに…いざいなくなると堪らないとうか……どっか上の空で仕事にも身が入らなかった」


旭さんはテーブルにシャンパンボトルとグラスを置いた。







「何故かわからないんだけど…お前の事好きなんだよな。理由はないんだ」


いい方に取ったらいいのかそうでないのかわからないが、とても旭さんらしい答えだと思った。

私は現金の入ったグラスを手に取った後、旭さんに近寄る。






「私を好きだって気持ちは…いくら賭けられますか?」


その気持ちを是非聞きたいなぁ…

真剣にはもちろん返してくれないことくらい分かってるけど、ギャグでもいいから聞きたいよ。





「…ちょっと待ってろ」


旭さんは少し考えた後寝室から出ていくと、すぐに仕事用の鞄を持って戻ってきた。




「これは俺の財布。これはカードが入ってる財布。これは大事な仕事の物が入ってる鞄」


そう言って順番にグラスに当てると、旭さんは最後に私を真っ直ぐ見つめた。

薄暗い中で見る彼の顔から目が離せない。
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