王子様はハチミツ色の嘘をつく


“私がいなくなっても、静也をよろしく――”


そんな意味が込められているのであろう、穏やかな瞳をお父様に向けられて、私の涙腺も我慢ができなくなった。

せっかく思い出の味をプレゼントして喜んでもらえたのに、こんな結末、ないよ……。

人の命って、こんなに簡単についえてしまうものなの?

思わず私も静也さんのそばにしゃがみこみ、彼の手と重ねるようにしてお父様の手を握る。

……あったかい。まだ、こんなに“生きている”じゃない。

そのぬくもりを確かに感じるのに、お父様のまぶたがゆっくりと降りてきた。

眠るように、安らかな表情……。まさか、本当に、これで……。


「……っ、そんな……お父様……っ」

「父さん――っ!」


強く呼びかけた静也さんの頬から、涙が一滴頬を伝う。

彼の細い顎をたどって落ちた雫は、閉じられたお父様の瞼にぽとりと落ちた。


< 195 / 212 >

この作品をシェア

pagetop