王子様はハチミツ色の嘘をつく
すると、次の瞬間……
もう二度と開くことはないと思い込んでいたお父様のまぶたが、魔法のようにぱかっと開いた。
私たちは一瞬、何が起こったのかわからなかった。
い、生き返、った……?
呆然とする私と静也さんに、お父様はむくっと体を起こすとなりにこりと笑いかける。
なに、どういうこと? 全然、状況が……。
「……本当に、悪趣味なんだから」
呆れたようにそう言った声の主は、お母様だ。それを聞いて、静也さんの表情がみるみるうちに険しくなる。
「まさかとは思いますが……父さん。今のは、わざと……?」
地の底から聞こえるような恐ろしい声で、静也さんが尋ねる。
「……何のことかな? フレンチトーストがあまりに美味しいんで死ぬかと思ったんだ。まあ、生きてたけどな」
「ふざけるのもいい加減にしてください!」
それって……ま、ま、まさか。今の全部、演技だったってこと!?
静也さんもなかなかの嘘つきではあるけど、お父様はそれに輪をかけて悪質……!
涙でぐちゃぐちゃな顔のままぽかんと父子のやりとりを眺めていると、お父様は少し言いにくそうに、苦笑しながら語る。
「……悪かったよ。でも、本当に近いうち俺はいなくなってしまうだろう? そんなとき、息子である静也は泣いてくれるのかと、実は不安だったんだ。お前を泣かないように育てたのは俺だから、泣いてもらえなくても自業自得なんだけど……」
その言葉にはっとした静也さんは自分の目尻に触れ、そこが濡れていることに気が付くと、ばつが悪そうにうつむいた。