王子様はハチミツ色の嘘をつく
なんと……そういう意図があったんだ。
お父様の教育によって、自分は泣かない子供になってしまったと前に静也さんに聞いていたけれど、そのことに関してお父様も親として悩んでいたんだ。
お父様は静也さんの涙が見られてほっとしたのかもしれないけど……さすがに死んだふりは、心臓に悪いよ。
「全く、あなたという人は……!」
静也さんは吐き捨てるように言うと、ふと自分たちを取り巻く状況に気が付く。
そこにはいつのまにか社員が野次馬となってここ一帯を囲んでいて、けれどみんな面白がるというよりは、感動したようにあたたかい表情だった。
その群衆から、一人の人物が出てきて、静也さんのもとに近づく。
「今日は、社長のお人柄をよく知ることができてよかったです。私たち役員に対しての思いも、しっかり受け止めましたので、今後ともよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げたのは、重役会議で一番静也さんと敵対していた専務だ。
静也さんは意表を突かれて目を丸くしていたけれど、立ち上がって彼のもとまで歩み寄ると、右手を差し出した。
「……こちらこそ。これからも、無理な要求・提案をバンバン持ち掛けますので覚悟してください」