王子様はハチミツ色の嘘をつく


大きなソファの隣に置かれたサイドテーブルの上に、はちみつ色の大きな石がある。

私が壊したものとよく似ているけど、同じ石だろうか。

私の視線を追った社長が、側まで来て説明する。


「ああ……あれは会社にあったものよりは少し小さいですが、トパーズの原石です」

「……やっぱり。でも、すごいですね。あんな高価なものをふたつもお持ちだったなんて」

「……高価?」


そう呟いて、首を傾げた社長。

……もしかしたら、社長にとってはあんなもの簡単に買えてしまうのかも。

でも、私の年収をはたいても買えない値段だと言っていたから、庶民にとっては高価すぎるくらいのはず。


「ああ……そういうことにしておいたんでしたっけ」


思い出したように言った彼は前髪をかきあげ、私の方をちらりと一瞥した。

その目がなんだか今までと違うように見えて、私の胸が少しざわめく。

……なんだろう。今の言い方も、引っかかるし。

瞬きを繰り返して彼を見つめていると、彼はとんでもないことを言い出した。


「実はここにあるトパーズも、会社できみが壊したトパーズも……ほんの数万円です。トパーズは、宝石の中でもそんなに高価なものではありませんから」

「え……? ちょ、ちょっと待って下さい、じゃあなんで……!」


だって、私、高価なものを壊したからって、すごく焦って、首が飛ぶ覚悟までして……!

混乱している私をよそに、社長は喉を鳴らして静かに笑う。


「それに気がつかないきみを見ているのは面白かったですよ。きっと、水晶を“ダイヤだ”と言っても、きみは気づかないんだろうなって。でも……」


ば、ばかにされてる……?

そりゃ、宝石なんて全く詳しくないけど、騙すなんてひどい……!



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