王子様はハチミツ色の嘘をつく
恥ずかしいような怒りたいような気持が混じり合い、唇を噛んでうつむくと、隣から社長の手が伸びてきて、私の顎をくい、と引き上げる。
「――そんな女性にこそ、本物のダイヤを贈りたくなります」
ぼっ、と火がついたように顔が熱くなった。
全くわけのわからない理屈なのに、なんでかドキドキしてしまう……。
「ねえ美都」
瞳を覗き込み、優しい声色で、彼が私の名を呼ぶ。
「は、はい……っ」
なぜにいきなり呼び捨て……?という疑問をつきつめる余裕なんてないほど、目の前の彼に心を奪われて、私は返事をするのがせいいっぱいだ。
「……まだ、思い出せないのか?」
「え……?」
質問の意味が分からず、小さく声を洩らして聞き返すと、彼は諦めたように長い睫毛を伏せて、私の顎からスッと手を離す。
なんだか、今の彼は口調もいつもと違ったような……。
「社長……?」
「まあ、思い出せなくても、きみの運命は変わりません。一生僕の側にいる――という運命は、ね」
そう言い残すと、くるりと身体の向きを変えてキッチンの方へ歩いて行ってしまう社長。
「コーヒーでも入れるので、座っていてください」
そう言われたけれど、何かが胸につっかえて、私はしばらくぼんやり突っ立っていた。
……私が思い出せていないことって、何?
だって、幼いころに会った社長のことは覚えているし、彼に淡い初恋をしたときの気持ちだって、まだちゃんと残っているのに……。