王子様はハチミツ色の嘘をつく


「……え?」


い、今のは聞き間違いだろうか。

会社のトップともあろうお方が、セクハラまがいの発言をしたような……


「聞こえなかったんですか? あなたが壊したトパーズは、あなたの年収を全部はたいても弁償などできない、高価な物でした。ですから、体を使うほかないと言ったんです」

「ねっ、ねね年収――!?」


下っ端の庶務課OLと言ったって、今年で六年目よ……?

少しずつだけど昇給はしているし、毎月コツコツ貯金ができるくらいの稼ぎはあるはずだけど……それを一年分差し出しても足りないってこと!?

急にめまいに襲われ、足元がおぼつかなくなった私の腕を、社長が咄嗟につかんで無理矢理にまっすぐ立たせた。

なんてひどい人。倒れさせてもくれないなんて……


「も……もうどうにでもしてください。二十八年間、誰にも触れられなかった体ですから、無価値に等しいと思いますけど……」


お父さん、お母さん、ゴメンナサイ。
私が穢れてしまっても、娘として受け入れてくれますか……?

気分はもはや身売りされる少女で、私が心の中で両親への謝罪を済ませていると。


「……ああ、そういう面の心配なら大丈夫ですよ。花嫁修業のプログラムに組み込んでありますから」

「……花嫁……修業?」

「ええ。でもまずは、仕事の話からしましょう」


そういって私の腕をパッと話した社長が、目の前の扉を開けて、中に入るよう促した。

私は目を瞬かせて必死で状況を整理しようとするけど、何もかも全然つながらない。

ただ流されるようにして、部屋の中に一歩足を踏み入れる。

すると、そこは私たち一般社員が使っているオフィスとは雰囲気の違う、高級感にあふれた机や椅子、応接セットが並んでいた。

……わー、いかにも社長室って感じ。



< 8 / 212 >

この作品をシェア

pagetop