王子様はハチミツ色の嘘をつく


「夜? ええと……」


そう言われても、私の予定は社長次第だ。私の思いを察したらしい彼は、腕時計を確認してこう告げる。


「今日は美都に少し頼みたい仕事がありますが……七時ごろには、解放してやれるかと」

「じゃあ、その後ね! あ、そうそう、連絡先、こないだ聞くの忘れてたから教えて?」


流されるまま華乃と電話番号を交換すると、彼女は嵐のように去って行った。

なんだかどっと疲れたような気がして息をついていると、社長がデスクの方から私を呼んだ。


「……さて。さっきの会議で、あそこまで大見得を切ったからには、養蜂園に社員を置くことを本格的に考えなくてはなりません。
とりあえず、各課に連絡して何名くらい人員を確保できそうか聞いておいてください。こちらも具体的な計画はまだ出来上がっていないので、もちろん仮の人数で構いません。それと……」


次々に仕事を与えられた私は、とりあえず過去のことや華乃のことは頭の隅に追いやって、社長のために必死で動き回った。

まだ、どの部署ともうまく連携ができず、内線で話が通じなければ直接その部署があるフロアに足を運んで、社長の考えていることを代弁したりした。

それでも、突っ込んだ質問などには上手く答えられず、結局社長に確認する二度手間に落ち込んだり……。

そうこうしているうちに、オフィスの窓から見える空は暮れていき、あっという間に夜のとばりが下りていた。



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