フルブラは恋で割って召し上がれ
「夏目さん、それは?」
その日の勤務も無事終了。着替え終わってロッカールームから倉庫へ移動したところで斎藤氏にバッタリと出くわしてしまった。
斎藤氏が尋ねていたのは、おそらく私が抱え持っていたガラスの密閉ボトルのこと。
「これですか? 自家製のフルーツブランデーです。果物をブランデーで漬けたものなんですよ。」
琥珀色の液体の中には、スライスされたリンゴ。果肉の色が瑞々しさの面影を残しつつ、蜜色に染まりかけているのがなんとも言えない色気すら感じてしまう。
「ブランデー……か」
神妙な面持ちで腕組みをしてフルブラの入った容器を眺めている斎藤氏をよそ目に、私は倉庫の隅にまとめて置いてある備品の箱の中から、切れてしまって使い物にならない廃棄のラッピング用のフィルムを持ちだしてテーブルの上に広げた。
「これ、ちょっといただきますね」
「あぁ、構わないが」
「ありがとうございます」
ガサガサと音を立てながらガラス瓶をラッピングし始めた私のことを、斎藤氏は相変わらず腕組みをしながらじっと見ている。
切れた箇所を折り込んでカバーしてなんとかラッピング完了。うん、我ながらいい出来。
持ってきた紙袋にそっとそれを入れて、さあ帰ろうと思ったのだけれど……、斎藤氏が倉庫の入り口を通せんぼしている形で立っているので動くに動けないんですが。
「あ、あの……なにか?」
「いや。――それは、プレゼント?」
「はい。今日これから店長のお見舞いに行くんです。奥さまからのリクエストもあったので、ちょうど飲み頃になっていたりんごのを持ってきたんです」
私がそう言うと、斎藤氏の薄く引いた唇がほんの少し緩んだような気がした。
「そうか、宮本くんにか。――お大事に、と伝えておいてくれ。店の方は心配せずにしっかり治すようにとね」
「はい。お疲れさまでした」
ぺこりと頭を下げてから、身体をずらして通り道を作ってくれた斎藤氏の横を通りすぎる私。
なぜだか斎藤氏にずっと背中を見送られているような気がして、私の足は不自然なくらいにその場から離れようとしていた。