おいてけぼりティーンネイジャー
そんなこんなで、私の高校生活に暎さんが、そして暎さんの生活の中に私が、少しずつ浸透し始めた。
学校からの帰りに暎さんのマンションに寄って、2、3時間を共に過ごす。
私を送ってくれて、その足で暎さんはスタジオへ入った。

春のツアーが始まると暎さんは留守が増えたけど、律儀に洗濯物を送ってくるようになった。
何があってもココが暎さんの帰る部屋……暎さんが留守でも私はココにいるだけで幸せな気分になれた。


本格的に授業が始まった。
私はなるべく予習も暎さんの部屋でやるようにしていた。
暎さんもまた、私の勉強の邪魔をしないようにと心掛けてくれているらしく、傍らで曲を作ったり読書をしていた。

「そういや、知織の学校ってさ~、陸上強いよね?」
バロックギターを抱えてポロンポロンと弾きながら暎さんが聞いてきた。

「うん?そうらしいですね~?朝も昼も放課後も練習してはるよ~?……あ、そっか。暎さん、陸上やってはったんやもんね。」
私は英語の辞書を引く手を止めた。

暎さんは、微妙な顔で首をかしげた。
「あのさ~、たぶん、そこの陸上部の監督?大学の陸上部と兼任の体育教師だと思うけど……俺の、中学の時の先輩だと思う。」

ほう!?
「そうなんや。え~、じゃ、その先生と仲良くなったら、暎さんの中学の時のお話聞けるんかなあ。うわ~……ちょっと体育教官室入り浸ろうかな~。」

「……いや、やめといたほうがいいかも。まゆ先輩、けっこう勘の鋭いヒトだったから。」

まゆ?

「女のヒト!?え~!もしかして、そのヒトが初恋ですか!?」
私がそう聞くと、暎さんは、ぶはっと吹き出し笑いをした。

「違う違う。まあ、イイ女だったけどね。遊びで手出しできるヒトじゃないよ。オリンピックにも出たんだよ?今も確か、日本記録保持者。」

へえ!
「すごいヒトと一緒だったんですねえ……暎さんも真面目にがんばってたんやろうねえ。その頃、見たかったなあ。」

しみじみとそう言ったけど、暎さんは首を横に振った。
「絶対やだ。俺、中学は不器用だったし、高校なんか素行最悪でまともな恋愛してないもん。今だから知織を大切にしたいって心から努力もできるんだよ。」

含蓄あるなあ……どんな悪さしてきたんだか。
「あまり気負わなくていいですよ?そのままの、天真爛漫な暎さんが好きですから。犯罪者でも。ね?」

そう言って、暎さんの目を覗き込んだ。
大好き。
そんな気持ちを込めて、微笑みかけてから、暎さんの白い頬に口づけた。

暎さんは、困った顔をしていたけれど、その瞳が慈愛に満ちていた。

多少の違和感を覚えながらも、私は暎さんの首に両腕を回して抱きついた。

相変わらず暎さんは、壊れ物を扱うかのようにそっと私の背中にを撫でていた。
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