おいてけぼりティーンネイジャー
「君、ハーフ?」
黒い重い前髪をうっとおしそうに掻き揚げながら、そいつは言った。

「いや、日本人。……これ、何て曲?」
「テレマンの……何だろうな。」
わからないでわざわざ見てるのか?

俺が怪訝そうな顔をしていたので、そいつは、苦笑した。
「これ、出版されてないテレマンの自筆の楽譜集なんだよ。世にほとんど出てないし、完成すらしてないワンフレーズだけの五線譜なんかも収録されてるの。」

「へえ……そんなのがあるんだ。おもしろいな。……ブレシャネッロ?クヴァンツ???」
そいつが脇に置いていた他のリールの名前を読み上げてみたが、初耳だ。

「ああ。マイナーだからね。……バロック音楽ってわかる?」
「バロックって、バッハとかヘンデル?」

そいつの表情が一気にぱああっ!と明るくなった。
「そう!それだけわかってたら充分だよ。バッハ以前の音楽なんだけどね、これがけっこうおもしろいんだよ。」
「……つまり教会音楽と宮廷音楽だよな?むしろ堅苦しくて退屈なイメージだけど。」

俺がそう言うと、そいつはニンマリと笑った。
マイクロリーダーで少しリールを戻して、画面を指さすと俺に聞いた。
「例えばココ、四分音符が4つだよね。どう吹く?」

吹く……弾くじゃなくて、吹く、か。
こいつは管楽器をやるのかな。
ソの音……G(ジー)って言ったほうがいいか?それともゲーか?
めんどくせぇ。

「普通に、ソー、ソー、ソー、ソー……じゃないの?」
俺は格好つけるのを諦めて、そう聞いた。

そいつは楽しそうに笑った。
「楽譜通りならそうだよね。でも、バロック音楽はけっこう自由でね。僕ならこう吹くかな。」

そう言って、そいつは鞄の中から布にくるまれた棒状のものを出してきた。
おいおいおい、まさかここで演奏するわけじゃないだろうな。
ここ、図書館だぜ。

そいつは喜々として笛を取り出すと、小箱からリードを取り出した。
マジで吹く気だな!

「ちょ!ココじゃ、まずいって。図書館だぞ。」
慌てて止めると、そいつは心底不思議そうな顔で俺を見た。
「……そんなナリして、真面目なんだねえ。」

いや、常識だろう!

唖然としてる俺を尻目に、リードをぷっぷー吹いてから、笛……リコーダーのようなオーボエのような見たことのない笛にさすと、そいつは華麗に吹いてみせた。

ぱらりらぱらりらぱらぱらりらぱらりら……って、全然違うじゃねーか。

てか、マジで図書館で吹くか!?

俺はただただ呆れて見ていた。
< 25 / 198 >

この作品をシェア

pagetop