おいてけぼりティーンネイジャー
Συμπόσιον-恋についてside知織
♪君に伝えたい 僕の愛 僕の夢 僕の希望♪

いつ、どこで覚えたのかわからないけれど、気づいた時には頭の中でリフレインしていたこのフレーズ。
うちにはテレビがないから、コマーシャルソングで何となく覚えた、というわけでもないらしい。
街角の有線ででも聞いたのだろうか……。

幼少の頃から、両親の教育方針で本物の音楽、つまり正統派なクラッシックやオペラしか聞いてこなかった私には、正直なところ、演歌も流行歌も耳障りでしかない。
特に下手くそなアイドルグループの不協和音といったら……耳がテロ攻撃を受ける気分だ。


「あれあれ。こんなん聞かせたら、おひいさんの耳がおかしゅうならはりますわ。」
小さい頃は、そう言いながら父が私の耳をふさいでくれたものだ。
さすがに中学に入った頃からは、遠慮が先に立つのか、父から触れられることがなくなってしまったけれど。

父は私を「おひいさん」と呼ぶ……気恥ずかしいけれど、お姫さまのことだ。
そう言う父のほうこそ、正真正銘「ええしのぼんぼん」。
有名なお寺の一番大きな塔頭の長男なのだが、弟、つまり私にとって叔父にあたるヒトに全てを譲り、寺を出て母と私と家族3人で暮らしている。



「知織(しおり)。お父さんと後ろで見てるからね!」
「おひいさん、緊張しんと、楽しんでらっしゃいな。いってらっしゃい。」
父と母に見送られ、家を出発。
地下鉄で移動して、地上に上がると、すぐに広い校庭が見える。

今日は中学校の入学式。
光栄なことに新入生代表を勤めるので、集合時間よりも30分早く職員室へと赴いた。

「失礼します。新入生の大村知織です。よろしくお願いします。」
「……こんなかわいい子が今年は一番なんや!才女やね~。知織ちゃん。名前までかわいいね。」

同じく高校の新入生代表らしい男子の先輩が、ニコニコ笑いながらそう言った。
かくいう先輩も、すごくかっこいい。

頬が赤くなるのを自覚して黙って俯いていると、横から先生がやってきた。
「こら!竹原!大村が困ってるだろう!……大村、気をつけろ~。こいつは、紳士だけど見境ないからな。」
……どういう意味だろう?

つまり、嫌がる女の子には手出ししないってことでいいのかな?
でもこの顔とこのフレンドリーさを敬遠する女子って、かなり少ないんじゃないだろうか。

上目遣いでちらりと竹原先輩を見ると、にっこりと極上の微笑みをくれた。

心臓がドキン!と跳ねた。
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