おいてけぼりティーンネイジャー
「は!?出家?お前、何、言ってんの?親御さん、泣くんじゃない?」
常識的な茂木らしい返事に、俺は苦笑した。

「や、お経読んでたら、何か内容にロックを感じてさ~、出家もいいかな、って思っちゃった。」
あまりにも能天気な返事をしてしまったけど、まあ、そういうことにしておこう。
女関係に疲れた、とはさすがに言えないだろう……特に茂木には。

「お経にロックねえ……」
しばらくして、ぷぷっと茂木が笑った。
「読経したら、一条の声、独りだけ他のお坊さんより1オクターブ高いんじゃない?」

……そうかもしれない。

「それに宗派どうすんの?真宗なら剃る必要はないだろ?まあ、その金色の長髪はダメだろうけど。」
「ま、いずれにせよ、断髪式やろう!武道館取れる?」

茂木は肩をすくめて、マネージャーに電話をした。
電話の向こうでマネージャーが驚愕の声を挙げていた。



さすがにいきなり武道館は無理だったが、ドームはちょうど俺の30歳の誕生日を押さえることができた。
テレビやラジオの出演番組で告知したところ、反響は予想以上に大きかった。
なぜかテレビ局の中継も入ることになった。

……元々、入場料を取る気はなかったが、チャリティーとして「御心付け」の回収ボックスをハサミの横に置いた。

結局「出家」はうやむやになったが、「断髪式」は馬鹿馬鹿しくも華やかに行われた……本末転倒だな。

俺は黒い燕尾服を着て、白馬に牽かれたオープンタイプの馬車で、ギロチン台を模したステージに登場した。
ケープは黒いサテンのマント……裏地は赤で、吸血鬼のようだと言われた。
ハサミとは言え、殺傷能力のある刃物を使うので、申し訳ないが厳重にセキュリティチェックを受けてもらった。
約1万人の観客の中、2千人ほどがハサミを入れたらしい。

最後は、茂木の世話になってる美容師さんに整えてもらって、色も黒くしてもらった。
15年ぶりに短い髪に戻った俺は、何だか老けたような若返ったような不思議な気分になった。

一条 暎(はゆる)、今日から30歳。

高校時代のように法に抵触する行為こそしてないものの、女性関係は爛(ただ)れに爛れて、既に飽和状態だった……。
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