おいてけぼりティーンネイジャー
ま、実際にテレビのない生活はけっこう豊かで気に入っている……学校でクラスメートの話に入れないこと以外は。
母の言うように、勉強にもピアノのお稽古にも、読書にも集中できる。

……そうだ、今晩読む本を借りよう。
私はウロウロと書架を見て回った。
両親ともに読書が好きなので、うちにはけっこうな蔵書がある。
私はどんなジャンルでも片っ端から読む乱読家なので、うちの本はほぼ読んでしまった。

図書・メディアセンターという名のこの施設の本も、どの棚から攻めようかな~……と、背表紙を眺めながら練り歩いた。
1人3冊一週間、か。
どんなに分厚くても1日で読んでしまう私にとって、3冊という制限は邪魔な気もしたが、読書にかまけて勉強する時間を削るわけにもいかない。

「中庸、中庸。」
父の口癖が、無意識に私の口から飛び出した。
……ふむ、中庸、か。

早速私は、哲学書のコーナーに行った。
ニーチェやマキャベリも気になるけれど、とりあえずは古典かな。
『ソクラテスの弁明』『国家』『饗応』
私はプラトンの有名な本を3冊手に取ると、カウンターで貸し出しの手続きをしてもらった。

読み始めると、文学本にはない、抽象的な無限の広がりに驚いた。
言葉のうわっつらだけを観念的にわかったような気になることはたやすい。
でも、そのさらに奥に続く深い世界に、私はすっかりと溺れてしまった。

考えても考えても、まだ足りない。
もっと考える余地がある。 
答えは、あるのかないのかすらわからない。 
ソクラテスって、深~い。

まるで恋をしてるかのように、私は四六時中ソクラテスの言葉に込められた意味を考えていた。
中学の図書室にあるプラトン本は、あっと言う間に読んでしまった。


司書の先生に相談すると、高校の図書室も利用できることがわかった。
早速、昼休みに高校の図書室へ行ってみたが、中学と比較にならないぐらい広い。
蔵書量も多いし、閲覧机も充実している。
でも、利用する生徒が少ない!
閑散とした室内に、私はニンマリとほほえんだ。

許可をもらったとはいえ、やはり中学生の私には高校の図書室は敷居が高い。
うちは、制服がないし、混じってしまえば中学高校の区別はつきにくいだろうが、それでも気後れするものだ。

私は、特に人気(ひとけ)のない大型書のコーナーを経て、哲学の書架へと進んだ。
やったー!
プラトン全集だー!
わ!しかも、索引もちゃんとある!
私は嬉々として、索引を手に取った。

借りられるのは3冊だよね……何から読もうかな……

真剣に吟味してると、耳障りな音が聞こえてきた。

衣擦れと、湿った……これは……キスしてる!?
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