おいてけぼりティーンネイジャー
「なるほどね。知織ちゃんは、強いねえ。妹にも知織ちゃんみたく、自分に自信を持ってほしいんやけどなあ。」

……妹がいるのか。
何だか、気の毒だな。
こんなお兄さんがいたら、他の男のヒトに目が行かないんじゃないだろうか。

ぼんやりそう考えてると、予鈴が鳴った。
竹原先輩の手が、私から離れた。
「残念。もっと話したいけど、タイムリミットや。知織ちゃん、またこっちにおいで。中学の図書室は、CDやDVDが多くてガチャガチャしてるやろ?俺も中学の時からこっちに来てたし、遠慮せんと。な。」

そう言ってもらえて、私は心底うれしくなった。
免罪符をもらった気分になり、私はうなずいた。

廊下を早足で歩いて中学校舎に向かいながら、ふと思い当たった。
竹原先輩は、高校の図書室に何をしに行ってたんだろう。
まさか、女子とイチャイチャするため、じゃないよね?
プラトンも苦手と言うからには読んだことあるんだろうし。

……ここ数日、アリストテレスのことばかり考えていたのに、竹原先輩のことで頭がいっぱいになっている自分に気づいて苦笑した。



それから、私は高校の図書室を利用することが増えた。
時々竹原先輩と遭遇したけれど、先輩は大抵女の子と一緒に書架の陰にいたので、ろくに挨拶もできなかった。
……しかし、毎回違う女の子って、どういうことだろう。

ごく稀に竹原先輩が1人で本を選んだり読んだりしてるところに居合わすこともあった。
そんな時は、気さくに話しかけてくださり、先輩の豊かな知識と深い見解に驚かされることもしばしばだった。
外見だけの空っぽなヒトじゃないんだなあ。
そりゃ、もてるわ。


本格的に授業が始まると、私は予習に忙しくなった。
父から教わった学習法は、宿題以外の復習をせずに、予習を完璧にしていくこと。
……穏やかで一風変わった父は、仏教、なかでも実家とゆかりの深い禅宗の研究者だ。

「じゃ、大村さんの頭のいいのは、お父様譲りなのねえ。うらやましいわぁ。」
心にもないお世辞を述べながら、せっせと私のノートを写す子達。
一時しのぎに過ぎないのに、どうして自分で勉強しないんだろう。
テスト前に困るだろうに。
私は、よそ行きの微笑みを貼り付けて、言われるがままに、自分のノートを写させてあげた。

コピーを取って、私の知らない子に回しているのも知ってたが、何も言わなかった。
一生、他人の成果を借りて生きていけるものだろうか、とぼんやり見ていた。
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