Trick or Love?【短】
「久美は、自分の気持ちを認めたくなくて、ただ社内恋愛を言い訳にしてるだけなんじゃないのか?少なくとも、この一ヶ月の間で社内恋愛が邪魔になっていたとは思えない。俺にとっても……それから、久美にとっても」


最後に私の名前を強調した原口くんには、きっともう心の中を読まれている。彼の言う通り、この一ヶ月は仕事もプライベートもとても張り合いが出て、充実していた。
原口くんと一緒にいる時に仕事の話に熱が入ったりすると、翌日は驚くほど業務がよく捗った。プライベートでは手を抜きがちだった身だしなみにも気を遣うようになって、雑誌を読み込んでメイクを変えたりもした。

それらは全て、原口くんに影響されたから……。


「反論があれば聞くけど?」


ふっと笑われて、自信に満ちた笑みが私の瞳を捕らえる。


だから、嫌なのよ……。


こんな風に心の中を見透かされてしまっていることが、とても悔しくて。それなのに、抱いているそれはどんなに強がってもあの日ほどのものにはならなくて。
そして、その分だけ原口くんへの気持ちになっていることに気付いてしまう。

否定したいのに嘘を紡げない唇は、今にも陥落の言葉を放とうとしている。


とても悔しい。
絶対に認めたくない。


だけど……。


「どんなことがあっても、絶対に好きになんかならないと思ってたのにっ……!」


悔しさに包まれた私が発したのは、必死に用意していた言い訳でも、頭を悩ませて考え抜いた嘘でもなくて、素直にはなりきれない精一杯の言葉。

可愛げがないのは明白で、喉の奥でクッと笑った原口くんもそれを言い出しそうに破顔している。

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