八つ子の魂百まで
プロローグ
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げぼくのおきて

1、彩音のいうことはなんでもきく
2、彩音いがいのおんなにほんきにならない
3、彩音がしてほしいことはなんでもする
4、彩音がないたらなぐさめる
6、彩音のことがスキという
7、彩音のことをまもる
8、彩音といっしょにねる
9、/////////////////////////////////////////
10、彩音をぜったいきらいにならない
しゅじん 竹口 彩音
げぼく 蛭間 翔
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「うわ、また懐かしいものが」

実家の自分の部屋を掃除していたら、色鉛筆で描いた「下僕の掟」なるものが出てきた。
まだ小学校に上がるまえだったので自分の名前以外漢字で書けなかったあのころ。
それでも飲み屋をやっていた母親の影響でやたら大人びた言葉を使っていた、意味も知らず。それにしてもひどい内容だ、よくサインしたな蛭間翔くん。

母親が体を壊して飲み屋を辞め、祖父母のいる田舎に引っ越してきたのが確か私が4歳のころだった。
子どもの少ない田舎に引っ越してきて、初めての友達が3歳上の蛭間翔翔くん。
今思えば、私の母親も翔君の母親も「未婚の母」この田舎では浮いていたのだろう。
同じ境遇の者同士仲良くなり、そして自然とその子どもも仲良くなった。

3歳も年下の生意気な女のこの言うことをいつもニコニコ聞いてくれていた翔君。
そしてそれに調子に乗った私が作り上げたのがこの「下僕の掟」だった。

「下僕ってまた…よく翔くんは許してくれたよなぁ」

でも、優しい翔君は許すしかなかったのかもしれない。
田舎に引っ越して1年も経たないうちに体が弱かった母が亡くなって、寂しくて夜も眠れなくなった私が作った「下僕の掟」
9番の所が色鉛筆で塗りつぶされているけど、いつどうして塗りつぶしたか思い出せない。
そういえば翔君がこの田舎から去った直後泣きながら消した気がする。
後から聞いた話だけれど、IQがとても高かった翔君を翔君の父親が引き取ったらしい。
泣き崩れる母親と私を必死になだめる翔君の姿は今でも覚えている。
すぐに会いにくるよと約束する翔君に、私は二度と会わないといったような気がする。
実際、翔君とは二度と会えなかった。
あの後すぐに翔君の母親は体を壊し、最先端の医療を受けるためと東京の病院に行ってしまった。

「彩音ちゃん、ご飯できたよ」
「わかった、おばあちゃん今行くね〜」

今日は最後の晩餐。
明日私は東京に行く。
高校までこの田舎で過ごし、同県内の大学を無事卒業、そして運良く東京に本社がある企業に就職が決まったのだ。
まだ配属は決まってないけど、新人は1ヶ月東京本社で研修をすることになってる。
できれば実家の近くで働きたいけど、贅沢は言ってられない。

「彩音ちゃん、さめちゃうわよ〜」
「はーい、すぐいきまーす」

深く考えずに「下僕の掟」を開けっ放しのスーツケース投げいれた。
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