ずっと見守る
「田中さん!田中美咲さん!聞こえますか!?」

 うん。大丈夫。

 聞こえてる。まだちゃんと息できてるよ。

 だけど、あたしのまぶたは重くて持ち上げることができない。

 あたしはまだ生きているのに、聞こえているのに。

 周りが騒がしくて、たくさんの機械音。

「美咲!!美咲、起きろ!!起きてくれ!!」

 廉太・・・・・・?

 大丈夫だよ。

 もう少し寝たらまぶたは開くはずだから。

 だからそんな苦しそうな声で名前を呼ばないで?

「みぃちゃん!!まだ・・・・・・まだよ!!頑張りなさいよ!!みぃちゃんなら、頑張れるでしょう!?」

 お母さん。

 どうしてそんなに怒っているの?

 あたし、まだ20歳だよ。

 全然若いんだから、大丈夫だよ。

 それより、廉太のおべんとう作らなくちゃいけないの。

 いつもみたいにスーツの廉太に「いってらっしゃい」って。

 それから掃除機かけて、コーヒーを飲みながらゆっくりするの。

 そうしたらお買いものに行って・・・・・・。

 スーツを着て疲れた顔をする廉太に「おかえり」って。

「お・・・・・・かあ、さん」

「みぃちゃん!?どうしたの!?」

 目を真っ赤に腫らして、それでもまだ泣き続けるお母さん。

 苦しそうな顔の廉太。

「あたしの・・・・・・。いつもの、ポーチの中・・・・・・。帰ったら、読んで?」

「わかったわ!!」

 ハンカチと一緒にあたしの右手を握り締めるお母さん。

「廉太・・・・・・?」

「なんだ!!俺はここにいるから」

「いつも、持ち、歩いてた。あたしの枕の下・・・・・・。あるから、読ん・・・・・・で?」

 ちゃんとあのとき書いた手紙のこと言えたよ。

 きっと読んでくれるよね?

「先生!!数値が!!」

 あたし、もう終わりみたい。

 でもみんな泣かないで。

 悲しまないで。苦しまないで。

 ずっとお空の上にいるから。ちゃんとみんなのこと見守ってるから。

「みぃちゃんっ!!あたしっ、毎日話しかけるから!!」

 うん。お願いね優ちゃん。

 優ちゃんにはお手紙は渡したよ。

 あたしが消えちゃったら読んでって。

 みんなしばらくのお別れだね。

 生まれ変わっても、仲良くしてね?

「廉太くん」

 しっかりと精一杯の力で最後に伝えるよ。

 あたしは、彼の指を赤ちゃんのように弱々しく握った。

「美咲・・・・・・」

「廉、太くん・・・・・・愛、してる・・・・・・」

 じゃあみんな・・・・・・また、ね?


 最後に聞こえたよ、ちゃんと。

『美咲だけを愛してる』

 気のせいじゃないよね。

 もう何も聞こえない。

 みんな。

 ありがとう。またね。


 みんなのこと。

 ずっと。ずっと。

 ずーっと。ずーっと。

 ずっと見守る、よ?
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