強引な次期社長に独り占めされてます!
まさか、私を調べるためにわざわざ近づいてきた?

主任の言う“好き”って言うのは本当なのか……そこを疑ってしまう。

確かに、私は単なる経理事務の職員だし、ほぼ新入社員だし。
上層部の“色々とあること”なんて知る立場にないんだろうけど。

あの会議の内容プラス、営業部課長と宮園さんが退職した事、イコール重大な何かがあった……と、仮定するのは簡単だしさ。

「松浦さん。今は仕事中。これから忙しくなるんだからしっかりして」

幸村さんに厳しい顔を向けられて、主任のデスクから伝票に視線を戻す。

幸村さんたちだって、今のこの時期に主任がいないのは気になっているはずで、でも、何も言わないって言うのはそれが大人の対応なのかな。

……私はやっぱり子供なんだろうか。

そんな事を考えながらも、日々の業務はどんどん忙しくなり、主任も席に戻ってくるようになったけど、会話らしい会話もなく、たまに書類のやり取りをするだけ。

そんな数日を過ごし続けた金曜日。

「松浦」

退勤を打刻した所で、久しぶりに主任が声をかけてきたから振り返る。

「お前、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

いつもと変わりない主任の真面目な顔を見上げ、それから視線を落とした。

「大丈夫です」

「そうか? 何だか痩せたような気もするんだが……」

そう言って頬に触れるようとするから、思わず身を引いた。

「松浦?」

訝しげな顔をする主任を見ながら苦笑をもらす。

「大丈夫です。昨日は眠るのが遅くなって、少し寝不足なだけですから。では、お疲れ様でした」

言い切るだけ言い切って、ドアを開けるとロッカーに急いだ。
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