強引な次期社長に独り占めされてます!
「ちょっと、うちの親友に何をしてくれてんのよ」

んん? 何だかいきなり騒がしい。

「……恐らくは誤解が生じていると思う。それはどうでもいいが君は声が大きい」

落ち着いた声は上原主任ですね。

「そんなことを言っても、普通は加害者が残るでしょ! あんたじゃないなら加害者どこよ!」

「……松浦が帰した」

「可南子が男と話すはずないでしょ」

「……それはどういうことだ?」

心底不思議そうな主任の声に、今度はパッチリ目を開けた。

見ると飛び込んで来たのは落ち着き払ってパイプ椅子に座っている上原主任と、その主任のネクタイを引っ張り上げている芽依の姿。

ビックリして起き上がろうとした瞬間、目眩がして目を瞑った。
うわ~……。何だかこれ、貧血に似てるかも。

「松浦、いきなり起き上がろうとするな。そもそも動くな」

上原主任の静かな声音に恐る恐る目を開ける。

今度は何と体勢そのままに、心配そうにしている芽依と無表情の上原主任が見えた。

ふたりとも何だかシュールだけど。

「ごめんなさい」

「いや。怪我人の前で騒いでいるお前の友達が悪い」

淡々と話ながら、上原主任は芽依からネクタイを取り上げた。
そしてそんな主任を、芽依は鬼みたいな形相で睨んで……。

あ。もしかして、芽依は誤解してる?

「芽依。その人、私の上司だよ」

呟いたら、芽依がキョトンと目を丸くした。

「え? 上司? 経理課の?」

「上原主任。経理課の主任。芽依はあまり会うことないと思うけど、間違いなく私の直属の上司。その人は私の怪我とは関係ないよ」

芽依はしばらく上原主任を眺め、難しい顔をしながら徐々に赤い顔になっていく。
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