恋は死なない。



“そのように”というのは、人工中絶の手術をするということだ。医師があまりにすんなりと承諾して、淡々と物事が運ばれていくことに、佳音は逆に戸惑った。


佳音の心の中には深い葛藤があり、命を消してしまうことに、こんなにももがき苦しんでいるのに、医師も看護師も佳音の決断を引き止めることもなく、詳しい事情を聞き出すでもなく、平然としている……。

ここでは、自分のような人間は特別でも何でもなくて、同じ決断をする人間はたくさんいるのかもしれない。
……佳音はそう思って、これから自分がしようとしていることを、肯定するのに必死だった。


医師により手術の内容や手順を説明されたのち、別室に連れて行かれて、看護師から費用のことや補足の説明があり、それから手術の日程が決められていく。
手術の前の予備検査として、そこで採血もされた。


「手術の当日は、何も食べてこないでくださいね。麻酔をした時に、食べた物を戻してしまう人もいるので。それと、当日は誰か付き添いには来られますか?」


尋ねられて、佳音は無言で首を横に振った。自分のことを心配して、付き添ってくれる人なんていない。こんな質問をされるたびに、自分が孤独であることをいっそう強く感じてしまう。



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