恋は死なない。



佳音は、高校を卒業した後も、ずっと古庄を慕い続けていた――。それは、真琴だけではなく、古庄自身も感じ取っていたことだった。

古庄を慕いながらも、自分たちのことを祝福し幸せを願ってくれる佳音のことを、古庄も真琴も本当に可愛いと思い、いつも気にかけていた。


その佳音に、好きな人ができた。
自分の殻を破って一歩踏み出せたその事実は、古庄と真琴にとって喜ばしいことだったのだが、目の前にいる佳音は、こんな風に泣いている……。


「……その男に、フラれたのか?」


古庄が発した問いは、状況から考えると当然のものだった。しかし、佳音はまた首を横に振った。


「その人は……、私のことを『愛している』と言ってくれました」


その事実を告白するとき、切ない感情が込み上げてきて、佳音の目には涙がいっそう溢れてくる。


「……だったら?どういうことだ?」


好きになった人から『愛している』と言われて、どうして泣く必要があるだろうか?古庄は眉根を寄せる。
真琴は円香を抱いたまま立ち上がり、少し席を外すと、ハンドタオルを持って戻ってきた。


「好きになってはいけない人と、想いが通じ合ってしまったのよね?」


真琴がそう言いながら、佳音にハンドタオルを差し出すと、佳音はそれを受け取って、目元を押さえて頷いた。
思いがけないことに、古庄も佳音を凝視する。


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