恋は死なない。




「あら、トルコキキョウ、可愛いわね」


試着が終わり、佳音の出してくれた紅茶を口に含みながら、幸世がホッと一息つく。そのテーブルに活けられたその花に視線を落として、指先で花弁をつついた。


「もう一つのこれは、…花?」


「それは、ビバーナムっていう花です」


「ふうん、淡い緑で小さなアジサイみたい。これも綺麗ね」


佳音は相づちを打つように、ただ頷いた。


それは、2週間ほど前、もらった花束の中にあった花。毎日、水を換え切戻しをして、何とか今まで持たせてきた花たちだった。


でもそれが、和寿が持ってきてくれた物だとは、佳音はどうしても言い出せなかった。

あの時の出来事は、幸世には言ってはいけない――。そんな思いに駆られた。


「…あの、今日は古川さんはご一緒ではないんですか?」


和寿に思いが及ぶと、佳音の口を衝いて、その質問が飛び出してきた。
よく思い返して見ると、和寿にはきちんと花束のお礼も言っていなかった。


「ああ、あの人は、今日はゴルフに行くんですって。って言っても、うちのパパと接待ゴルフだけどね」


幸世がケロリとした表情で、肩をすくめる。



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