恋は死なない。



往来に佳音がいることに気がついて、ニッコリと微笑んだその笑顔は、先ほどの雑誌のスナップで見たのと同じ、和寿その人に違いなかった。

和寿は、まっすぐ佳音の方へと歩いて、目の前で立ち止まる。佳音は、ここに和寿がいることが、どういうことなのか頭の中で処理ができず、ただ黙って和寿を見上げた。

向かい合う和寿は、久しぶりに対面する佳音を、愛おしそうに目を細めて見つめている。


「……たった今、会社を辞めてきたんだ。僕の家は社宅だったから、住むところがなくなってしまって……。君のところに泊めてもらえるかな?」


和寿のこの告白に、佳音をはじめ、魚屋の夫婦と花屋の店主も驚いて息を呑んだ。


「あの大企業を、本当に辞めてしまったのかい?……それじゃ、副社長の娘との結婚も……?」


目を見開いたまま、魚屋のおじさんが思わず和寿に問いかける。和寿はおじさんと目を合わせると、柔らかく表情を緩め、それからもう一度、何も発せられない佳音を見つめた。


「これは、あの人が式で着るはずだったドレスだよ。……あの人が捨ててしまおうとしてたところを、僕が買い取ってきた。君がこのドレスを作るのに、どれだけ心を込めていたか、僕は知ってるから……」


そう言いながら、和寿は腕に抱えていた真っ白なドレスを少しだけ開いて見せた。



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