恋は死なない。



佳音は有無を言わさず必死になって、その男を押し返して、ドアの外に追い出した。
そして、ドアの鍵をかけると、ガラスのドアにサッとカーテンを引いた。

ひとまずホッと息を吐いたが、まだ手には震えが残っている。この男が来るたびに佳音はいつも怖かった。



「…お客さんですか?」


男を追い返す佳音の声を聞いていた和寿が、佳音の強張った表情を見て、いっそう心配した面持ちで尋ねてきた。

佳音は首を横に振って、事情を説明する。


「ご近所のお惣菜屋さんの息子さんなんです。時折、余り物を持ってきてくれたりするんですけど…」


魚屋や花屋で頂き物をするように、彼からの物に対して同じようには思えなかった。
彼のその行為の裏には、下心がある。それを敏感に察知して、佳音はいつも警戒していた。


その辺の込み入った事情まではうまく話せなかったけれども、和寿はそれだけで全てを飲み込んでくれた。


「女の人の一人暮らしは、気をつけなければいけませんね。男の人と二人っきりになるのは避けた方がいいですね」


和寿はそんな風に助言してくれたが、佳音は返す言葉が見つからない。


「………って、既にここに上がり込んでる、僕が言うのも変ですが……」


と、自分で自分にツッコミを入れた和寿を面白く感じて、佳音は思わずフフッと笑いをもらした。


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