オフィス・ラブ #0

「新庄さん」



耳に慣れた、心地よい声が呼ぶ。

夜道に車を走らせながら、ん、と返事をする。



「聞いてました?」

「いや、悪い」



聞いてなかった。

正直に答えると、やっぱり、というつぶやきが返ってきた。



「新型に、替えないんですかって」



車のことだ。

新庄の乗るこの車種は、去年フルモデルチェンジをし、すでに一度マイナーチェンジもしている。

新型が出ると、旧型は一気に古くさく見えるもので、乗りかえる人間が多いのもわかるけれど。



「いまひとつだろ」

「旧型オーナーは、絶対そう言うんですよね」



なぜか少し偉そうに、笑う。


お互い忙しい中、車で送っていくのが一番手っ取り早く、ふたりの時間を作れる方法で。

もういっそ、会社の近くに月極の駐車場を借りようかと思いはじめていた。


それを話したら、半分出しますよ、と恵利は言う。

別に金がないわけではないけれど、そういうのもいいかもしれない、と思った。



「今度、見に行くか、新型」



恵利は嬉しそうに、はい、と笑った。



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