オフィス・ラブ #0

「初めてですね、女性連れなの」



ディーラーの商談スペースで、少し雑談をする。

展示してある車を見たいと言って恵利が席を立った時、馴染みのセールスマンが言った。



「でも、あんまりお気に召さなかったみたいですね」

「あれは、けっこうカリカリにいじった車が好きなので」



新型はおとなしくて、物足りないんだと思います。

そう言うと、うらやましいなあとセールスが笑った。



「新庄さん、やっぱりですね」



席に戻ってきた恵利が、まだ言う。

スポーティで、趣味の車という印象の旧型に比べて、新型はどちらかというと家庭的だ。

それが、落ち着きすぎていて嫌なのだと言う。



「それがコンセプトだからな」



新庄の載る車種は、もともと90年代に一世を風靡した車だ。

当時それで青春時代を過ごした人が、20年たった今のライフステージでまた乗れるようにと、そういう考えでつくられたのが新型だ。



「コンパネだって、ちょっと運転席のほう向いてて、コクピットみたいなのが、かっこよかったのに」



そう不満を漏らすのに、本当によく見てるなと思わず笑う。

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