『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
マイ・ホームにおいで。
正面玄関のドアが開くと、目の前には見たことはあっても乗ったことは一度もない外国の高級車が停まっていた。

あたしは昨日と同じく仕事着のまま。
危うくワーカーシューズのまま乗りそうになって、慌てて靴を履き替えに行った。

今更ながら久城家の大きさに慄く。
怖気付きそうな胸の鼓動を気にしながら、正面玄関へと急いだ。


「お待ちしておりました。どうぞ」


中田さんは優しそうな笑顔で扉を開けてくれる。
メタリックな感じの黒の高級車の中には剛さんが深々と座り、真っ白で皺一つないソファカバーが全体に掛けられてる。

ゴクッと喉の奥に唾液を押し込みながら、どう乗れば美しく見えるのだろう…と、ぎこちなく手足を動かした。



あたしがソファに腰掛けると、剛さんは「本宅へ」と呟いた。



「かしこまりました」


中田さんはすんなりと言葉を受け入れ車を発進させる。
当直のおじさんがぽかん…とした顔で見送る。



（ああ…これがまた明日から噂の種にされるんだろうな…）



軽く気落ちしながら隣に座ってる彼のことを視界に入れる。

黒のカシミアコートの下には濃いグレーのスーツを着てる。
水色のネクタイには小さな柄が施してあって、タイピンはイエローのパール付き。
袖口に見えてるカフスはどこのメーカーかは分からないけれど間違いなく高価そうだし、皮靴のツヤはピカピカと光り輝いて傷も汚れも見当たらない。

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