『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
短く返事して照れる俺を尻目に、中田が「そうですね」と呟く。
高校時代から続く仲は、沢山のことを話さなくても通じている気がする。


…いろんなことが車内であった。
女性と喧嘩したことなんて、数え切れない程ある。


(でもな……抱き合ったまま眠る人は初めてだよ……)


ストレートの髪を撫でながら、軽く頬を押してみる。
起きそうにない彼女が可愛くて、無性にキスしたくなった。



(あーあ…なんだか今日も据え膳食らえず…って気がするなぁ……)



彼女とは結局、初夜も何もないまま同居が終わった。
結婚なんて意識しなくてもいいから一つになってみたかった。




(しかし…)



さっきの武内という医師に向かって、彼女が発した言葉が引っ掛かる。




(念書っていうのは何だ…)



すやすやと眠る呑気そうな彼女からは考えつかないことが、二人の間にはあったってことなのか。




(一体何だ。それは…)



病院内で奴に会った時の彼女の顔の強張りからして、相当嫌な思い出だったようだ。
それを聞かせてくれと言っても絶対に話したりしないだろう。
話すどころか、きっとますます心を閉ざしていくに違いない。




(…だとしたら、どうすればいいか…)


普通の女性と同じ扱いではいけない気がしてきた。

特別な人にはそれなりに神経を使ってやらないとーーー。




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